雨の降る世界で私が愛したのは
自分に分かるわけない。
突然後部座席に座る一凛が自分の知らない恐ろしい化け物に思えた。
警察に行くべきか。
そんな考えが浮かんだ。
その方が一凛のためなのではないか。
今の一凛は本来の一凛ではない。
一凛のこれからの人生を守れるのは今自分しかいないのではないだろうか?
このまま二人を逃がしては取り返しのつかないことになるのでは。
でももし途中でそのことがバレたら。
バックミラーでハルを盗み見る。
あの巨体に襲われたら一撃だ。
でもそんなことを一凛がさせるはずがない。
そう思った瞬間、自分の愚かさにほのかは小さく笑った。
助けて欲しいと手を伸ばす女友だちを自分は裏切ろうとしているのに、相手は絶対に裏切らないと信じているのか。
都合が良すぎる。
後ろから一凛がほのかを呼んだ。
「ほのか、ごめんね」
ざわめいていた胸の内が大人しくなる。
ほのかはフロントガラスの向こう側を見据える。
そこには激しい雨さえを吸い込む闇が広がっていた。