雨の降る世界で私が愛したのは


「あ、すみません。もしかして俺のこと忘れちゃってます?」

 一凛はこのまま彰斗を覚えてないふりをするかそれとも思い出すふりをするか迷い後者を選んだ。

 彰斗は一凛が覚えていると言うと嬉しそうにした。

 目を細めて一凛を見る彰斗が、この状況を説明して欲しいと言っているようで、

「ここ、わたしの実家なんです」

 咄嗟に嘘をついた。

「え?でも一凛さんは颯太と同じ高校じゃ」

「あ、えっと父の実家なんです。彰斗さんはどうしてこちらに?」

 彰斗は急に神妙な顔つきになる。

「実は例の彼女を追って来ました」

 訊くところによると結婚が流れた彼女の実家がこの町にあるのだそうだ。

 別れてもまだ彼女を忘れられない彰斗は、彼女がいま帰省していると知り彼女の両親に認めてもらえば彼女の心も変わるのではないかと思ったそうだ。

「で、玄関先で相手のご両親に頭をさげたんですか?」

 一凛はなるべく呆れた声にならないように努めた。



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