雨の降る世界で私が愛したのは


 本当にハルを動物園から連れ出してよかったのか、他に方法があったのではないか、悔いはどんどん広がる。

 なぜ自分はドラック中毒のスタッフの存在に気づかなかったのか、メスのゴリラをもっと注意深く観察していたら気づいたかも知れないのに。

 なぜハルの移動を承諾してしまったのか。

 いやそれよりもハルのような天才型のゴリラが普通の動物園で展示されていることじたいが間違っているのに、なぜ自分はそれを放置してしまったのか。

 吞み込まれそうになる自責の念から一凛は逃れるように走った。

 今の状況をつくったのは全て自分に思えた。





 駅に降り立つとホームに人は誰もいなかった。

 颯太はポケットに手を突っ込んで辺りを見回す。

 彰斗の別れた彼女から颯太に電話がかかって来たのは今日の昼過ぎだった。

 彰斗が実家まで押しかけて来て困っている、どうにかしてくれと言うのだ。

 どうにかしてくれと言われても困ると言うと、他に頼む人がいないのだとすがられる。


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