雨の降る世界で私が愛したのは

ほのか



 タイムスリップしたようなレトロな喫茶店でほのかはベイプを口にしようとして止めた。

 店内が霞むほどのタバコの煙を吸い込みながら、タールフリーの煙を吸うのも馬鹿らしいと思ったのだ。

 レジのところでタバコを売っていたのを思い出し固いソファーから立ち上がったとき、カランとベルが鳴って店の入り口が開いた。
 
 雨に少し濡れた一凛は店の奥にやってきた。

 一凛はすぐにほのかに気づいたが、ほのかが一凛だと気づいたのは、白いマスクの下から「久しぶり」とその声を聞いてからだった。

「どうしたのその髪」

 腰まであった一凛の長い髪はばっさりと肩の上で切り揃えられていた。

「これだとすぐにわたしだって分からないでしょ」

「変装のつもり?」

 ずっと連絡がつかなかった一凛からやっと電話がきたのが先日。

 絶対に居場所を教えようとしない一凛をどうにか説き伏せて、最後に別れた町で今日待ち合わせたのだ。



< 260 / 361 >

この作品をシェア

pagetop