雨の降る世界で私が愛したのは


「元気そうじゃない」

「やつれて悲壮感漂わせてるのを期待してた?」

 マスクを取った一凛の顔は少しだけ痩せたように見えたが、それ以外はあまり変わっていなかった。

 いや全く変わっていないというのは違った。

「前よりも優しい印象になった」

「以前はそうじゃなかったってこと?」

「そうじゃないけど」

 ほのかはどう説明したらいいか分からなかった。

 が、目の前の一凛にまとわりつく空気が前よりも柔らかくなっている。

 愛されている女がもつ空気だ。

 ほのかは直感した。

 激しく心臓が打ちつけた。

 息が止まりそうになり思わず口に手をやった。

 目を閉じた。

 自分の瞼が痙攣するように震えているのが分かる。

 それを見つめる一凛の視線を感じた。

 激しく黒く渦巻くものを必死に抑える。

「馬鹿なことしてると思ってるでしょ」

 一凛の言葉で固く結んだ目を開く。


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