雨の降る世界で私が愛したのは


 一凛がそういう意味で言っているのではないと分かっていても激しく動揺した。

 湧き上がる想像を必死で振り払う。

「ほのか気分でも悪いの?大丈夫?」

 一凛が心配そうにほのかの顔を覗き込む。

「昨日アルゼンチンのフライトから戻ってきたばかりだから」

 ほのかの噓に一凛はごめんね、とあやまった。

「これからどうするつもり?」

 一凛は、うん、とうなずいて店内を見回し、こんな喫茶店まだあるんだ、と関係のないことを言う。

 それでもほのかと視線が合うと決心したように言った。

「わたしね、一度イギリスに戻ってハルのことを相談したいと思ってるの」

 それはここ数日一凛なりに考えた結果だった。

 あちらの動物愛護団体が働きかけてくれたら、今のハルを見つけて殺せという最悪の状況からは逃れられるのではないか。

 少なくともハルが事故で人を殺してしまったことについてもっと人と動物を平等に判断してくれるだろう。





< 262 / 361 >

この作品をシェア

pagetop