雨の降る世界で私が愛したのは
「そのかわり一凛がイギリスにいる間のハルの世話までは無理よ。それは依吹にでも頼んで」
一凛は大きな目を潤ませて、ありがとうほのかと何度も繰り返す。
「そうと決まったら、なにか美味しいものでも食べに行かない?わたしが奢るから」
一凛は申し訳なさそうに首を横に振る。
「ハルが待ってるから」
「まるで片時も離れたくない恋人みたいね」
ほのかが一凛を試すように言うと、
「馬鹿なこと言わないで」
と一凛は笑った。
ほのかが途中まで送っていくというのを頑なに一凛は断り、喫茶店の前で二人は別れた。
やっぱり人とゴリラだなんてあり得ない。
ほのかは一凛の後ろ姿を見ながら心の中でつぶやいた。
気持ちだけならまだどうにか赦せる。
でもそれ以上先は無理。
それも赤の他人ならまだしも自分の知っている人間がそうだなんて。
わたしだってもう限界だ。
バックミラーで一凛の姿が道を曲がって見えなくなるとほのかは急いで車から降りた。