雨の降る世界で私が愛したのは


 一瞬でもハルを捨てようとした自分が恐ろしくて心の中でハルの名前を何度も叫んだ。 
   
 終わるときは一緒だ。

 ハルだけひどい目にあわせるようなことは絶対にしない。

 一凛は走った。

 喉がかすれて口の中に鉄の味が広がる。

 雨にけぶる道が一凛には光って見えた。

 その先にはハルが待っている。

 険しい道だったが一凛だけにはその道は光って見えた。







 点いたり消えたりする蛍光灯を恨めしげに依吹は見上げた。

「これいい加減新しいのに変えた方がいいんじゃないか」

 そう言って、自分一人だけが研究室に残っていることを思い出す。

 誰もいない部屋ではやけに雨の音が大きく聞こえる。

 白衣のポケットに手を突っ込みひねり潰したタバコの箱を取り出すと、小さくため息をついた。

 部屋の隅にあるゴミ箱めがけて投げると見事に外れて培養中のシャーレにこつんと当たった。

 慌てて駆けより拾う。 




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