雨の降る世界で私が愛したのは


 明かりのついた一階の部屋からテレビの音が漏れ聞こえてくる。

 まさかここの住人は二階にゴリラがいるとは夢にも思わないだろうな。

 依吹はタバコを取り出し火をつけた。

 一本をちょうど吸い終わる頃反対側の窓を叩かれる。

 見ると一凛が手招きをしていた。

 軋む階段を一歩一歩上がる。

 足に体重をのせる度に体がわずかに沈んだ。

 立ち止まった扉の前は電球が切れているのか暗かった。

 一凛の跡をついて暗い部屋の中に足を踏み入れる。

 人ではない生き物の匂いが鼻をつく。

 依吹もよく知っている匂いだ。

 目が慣れずに立ち止まっていると、カーテンをひく音がし、ぼんやりと辺りが明るくなった。

 灯されたのは一つの薄暗い裸電球だった。

 その下に。

 最初にすぐそれがハルだと依吹は分からなかった。

「久しぶりだな」

 驚く依吹に先に声をかけたのはハルだった。


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