雨の降る世界で私が愛したのは
「ハルか?」
「少しは人間らしく見えるか?」
ハルの冗談に反応できないほど依吹は呆然とその場に立ち尽くす。
ところどころ血が滲んだ肌にまばらに毛が生えている。
依吹には黒く見える血は毒々しい。
「まだ少し毛が残っている箇所もあるが、これでも一凛は剃るのが上手くなったんだ」
ハルは剃り残した毛を指でなでる。
美しかった黒い毛はほとんど剃り落とされ、成熟したオスのゴリラの証である白く光る背中はただれていた。
栄養状態が良くないのか、逞しかった体つきは影りを見せている。
かつての堂々としたハルの面影はまったく残っていなかった。
依吹は一凛の腕を掴むと部屋を出て、そのまま階段を下りる。
ハルは黙って二人が部屋を出て行くのを見ていた。
「話がある、とりあえず車に乗れ」
依吹は一凛を車に押し込めると自分も一緒に乗り込んだ。
「いったいどういうことだ、なんだあのハルの姿は」
大声になった。