雨の降る世界で私が愛したのは

「わたしが狂っていると、わたしが汚れていると思うならこのまま帰って。

 そしてもう二度とわたしに関わらないで。

 わたしももう絶対に依吹を頼ったりしないから」

 一凛は依吹の体を押しやる。

「依吹ごめん。

 わたし依吹に甘え過ぎてた。

 依吹なら分かってくれるってどこかで思ってた。

 子どもの頃からずっとありがとうね」

 一凛はドアに手をかける。

「おい待てよ」

 依吹はその手を掴んだ。

 一凛が振り返って依吹を見るとまっすぐに窓の外を睨んでいる。

 沈黙が流れる。

 依吹は黙ったまま、でも一凛の腕を離そうとはしなかった。

 一凛は抵抗せずにそのまま待った。

 やがて依吹は手を緩めると言った。

「一凛お前ほんとうに昔からひどい奴だな。俺の気持ち知ってるだろう」

 さっきとは違いいつもの依吹の和らいだ声に一凛も緊張を解く。

「気持ちって?」

「とぼけるなよ」

 しばらくしてから一凛は小さく「うん」とうなずいた。





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