雨の降る世界で私が愛したのは
「わたしも依吹のこと結構好きよ」
「なんだよその結構って」
依吹が笑ったので一凛もほっとして笑った。
「でもはっきり言われたこともなかったし、それに」
一凛はずっと昔から依吹の気持ちにはうすうす気づいていた。
一凛もただの幼馴染み以上の感情を依吹に抱いている自覚は多少なりともあった。
だから狡くも依吹に甘えられたのだ。
ただ依吹は自分に近づいたかと思うとすっと距離をおくようなところがあった。
藤棚の下のキスの後のように。
「俺が煮え切らない態度を取っていたせいでハルに横取りされたってことか」
「でも人の中ではわたし依吹が一番好きよ」
一凛は馬鹿なことを言っているなと思ったがその気持ちは本当だった。
子どもの頃から近くに居すぎて恋愛対象として気づきにくかっただけだと、今なら分かる。
ただハルと依吹への愛情は質の違うものだった。