雨の降る世界で私が愛したのは
キッチンを見回すとけっこうな調理機具が揃っている。
いつも外食ばかりしていると思っていたので意外だった。
普段の穏やかな空気がまた二人の間に流れる。
「でも今日はなんも材料がないから、どっか食べに出るか?」
依吹は全て拾い終わると立ち上がり腰を伸ばした。
「なに言ってるの、だめよ」
「なんで?」
「なんでってわたしは警察に追われてる身よ」
一凛を見下ろす依吹は何度か瞬きを繰り返し思い出したように
「ああ、それなら大丈夫」
と言った。
「大丈夫ってどういうこと?」
「被害届けなんか出さなかったから」
依吹が言うには警察はアパートの賃貸契約の筋からすぐに一凛の存在を突き止めた。
本来なら一凛は動物園内への不法侵入や窃盗の罪に問われることになる。
けれどそれは動物園側が被害届けを警察に出したことで成立する。
「もしハルが人間だったら今回の一凛の行動は罪になるけど」
そこで依吹は一旦言葉を切り一凛から目を逸らした。