雨の降る世界で私が愛したのは


「一凛大丈夫か?」

 一凛は深く頭を項垂れたまま呟いた。

「ハルは捕まる時どんなだったって?」

 今まで訊きたくても怖くて訊けなかったことだった。

 あのオランウータンのように麻酔銃で打たれるハルの話を聞くところを想像しただけで心が引き裂かれそうだった。

「大人しかったそうだよ、抵抗もせず」

 警察がアパートに押し入った時という依吹の言葉で、一凛はハルが自分から出ていったのではなかったのだと知り少しだけ嬉しかった。

 心のどこかでもしかしたらハルは自ら捕まるようなことをしたのではないかと疑っていたところがあった。

 そうではなく最後までハルがあの部屋で自分を待っていてくれたことが一凛には救いだったが、哀しみはより深くなった。

「どうしてバレたんだろう」

 一凛は独りごちた。

「通報の電話があったらしい」

「誰から?」

「そこまでは」

「男?女?」

「一凛、俺も詳しくは知らないんだ」

 依吹は後ろから一凛を抱き締めた。






< 299 / 361 >

この作品をシェア

pagetop