雨の降る世界で私が愛したのは
「ハルは麻酔銃で撃たれたんでしょ」
「もうそのこと考えるのはやめろ」
「そうよね、そんなことよりこれからハルはもっと酷い目に合うんだものね」
「一凛」
最後の依吹の声には怒りが混じっていた。
依吹だって辛いのだ。
一凛は自分に回された依吹の手に自分の手を重ねた。
「もうハルのことは考えるな」
依吹はゆっくりと一凛を自分の方に向かせる。
そんなの無理よ、と言おうとする一凛の顔を両手で包み一凛の表情を確認すると、依吹はそっと顔を寄せた。
唇と唇が触れる。
乾いた清潔なベッドに横たわると依吹の匂いがした。
部屋の入り口に気配を感じると当時に照明が消えた。
ベッドの端が沈む。
一凛は肩に手をかけられると依吹に向き合った。
依吹からはほのかに石鹸の香りがした。
ハルとはまったく違う体臭。
これが本来あるべき姿なのだと分かっていても違和感を感じた。
ハルのときこそ感じなければならなかった違和感を。