雨の降る世界で私が愛したのは


「いいの?わたしは人以外と寝ていた女なのよ」

 自虐的な一凛の口を依吹は自分の唇で塞いですぐに離す。

「愛してる一凛」

 そうして今度はゆっくりとキスをする。

 一凛にかかる重みも、闇にさらした素肌をときどき撫でる柔らかい髪も、静かな息づかいも、一凛に触れる指や舌先も、すべてがあの狭く湿った空気の中で交わされた愛撫と違った。

 この部屋がとても乾いて感じた。

 外には止まない雨が今晩も降っているのに。

 ここだけ、からからに乾いている。

 一凛はそっと心を閉じた。




 夜中に目を覚ました。 

 横で依吹が寝息を立てている。

 額にかかる前髪をそっとすくった。

 閉じられた目は鋭さを失い、起きている時よりもずっと幼く見える。

 一凛の胸の内側は穏やかな海のように静かだった。

 こういうのも一つの愛の形なのかも知れない。

 一凛は身を起こしぼんやりと宙を見つめる。

 窓の外の激しい雨音に耳を澄ませた。

 ハル。

 心の中で一凛は呼んだ。

 雨の音以外何も聞こえなかった。




< 301 / 361 >

この作品をシェア

pagetop