雨の降る世界で私が愛したのは
「いいの?わたしは人以外と寝ていた女なのよ」
自虐的な一凛の口を依吹は自分の唇で塞いですぐに離す。
「愛してる一凛」
そうして今度はゆっくりとキスをする。
一凛にかかる重みも、闇にさらした素肌をときどき撫でる柔らかい髪も、静かな息づかいも、一凛に触れる指や舌先も、すべてがあの狭く湿った空気の中で交わされた愛撫と違った。
この部屋がとても乾いて感じた。
外には止まない雨が今晩も降っているのに。
ここだけ、からからに乾いている。
一凛はそっと心を閉じた。
夜中に目を覚ました。
横で依吹が寝息を立てている。
額にかかる前髪をそっとすくった。
閉じられた目は鋭さを失い、起きている時よりもずっと幼く見える。
一凛の胸の内側は穏やかな海のように静かだった。
こういうのも一つの愛の形なのかも知れない。
一凛は身を起こしぼんやりと宙を見つめる。
窓の外の激しい雨音に耳を澄ませた。
ハル。
心の中で一凛は呼んだ。
雨の音以外何も聞こえなかった。