雨の降る世界で私が愛したのは


 出産?一凛は産むつもりなのか?

 例えようのない恐怖がほのかを襲った。

 そんなことが現実にあり得るのか?

 依吹は一凛が取り返しのつかないことをするのではないかと心配していたが、ほのかは一凛は自ら命を絶ったりしないと、それには自信があった。

 ハルがまだ生きている限り、お腹の中に一つの生命が息づいている限り、それは絶対にない。

 バチバチという雨音の他にコンコンと何かを叩くような音が聞こえたような気がした。

 しばらくするとまた音がする。

 何気に音のする方を向きほのかは飛び上がった。

 運転席の窓の外から黒い影がこちらを覗いているのだ。

 すぐに黒い影が人だと気づいたが、体を硬直させたまま動かないでいると、またコンコンと窓を叩かれる。

 恐る恐る窓を開けた。

「ほのかちゃん」

 親しげに名前を呼ばれても誰だか分からないでいると、相手は急に恐縮したように

 「あ、すみません。もしかしたら人違いしてしまったかもです」

 とよそよそしく言い訳し、その場を立ち去ろうとする。



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