雨の降る世界で私が愛したのは


 一凛は葬儀場を抜け出し動物園に向かった。

 依吹はそこにいる。

 なぜか一凛には確信があった。


 依吹の動物園を訪れるのは久しぶりだった。

 平日でもぽつぽつと客はいた。

 依吹はベンガルトラのところにいるような気がした。

 一凛は急ぎ足で園内を進む。

 頭上ではカラスが大人しく一凛を見下ろしている。

 トラの前に依吹はいなかった。

 檻の中では一匹の大きなトラが目を細め雨の匂いを嗅いでいる。

 その姿に獰猛さはなくまるで大きな猫のように見える。

「ねえ、依吹を知らない?」

 一凛は檻の奥に訊ねた。

 トラは耳だけこちらに向けたが応えてくれる様子はない。

「依吹ここに来なかった?」

 今度は耳さえも動かさない。

 一凛はあきらめ檻の前から離れる。

 依吹がいそうな動物の檻を手当たりしだい回ったがどこにも依吹はいなかった。






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