雨の降る世界で私が愛したのは


 猿山の猿に訊ねると、「あんたには教えてあげない」と意地悪く返された。

 猿山が最後だった。

 もしかしたら依吹は動物園に来ていない、もしくはもう別のところに行ってしまったのかも知れない。

 戻ろうとして一凛は自分が知らない場所にいることに気づいた。

 考え事をしながら歩いているうちに迷い込んでしまったようだ。

 その場所はひときわ緑が深かった。

 まるでジャングルの中にいるかのような錯覚に襲われる。

 その緑の奥に檻があった。

 中にいたのは。

 真っ黒で艶やかな毛がわずかに風で揺れていて、その先端に雨の雫が白く光っている。

 がっしりとした逞しい体つきに同じように精悍な顔つき。

 地面をしっかりと踏みしめるように支える四本の手足。

 滑らかな曲線を描く背中は銀白色に光っている。

 一凛は息を呑んだ。

 美しかった。

 檻の中にいたのは一匹の大きなゴリラだった。




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