雨の降る世界で私が愛したのは
「まだ。何度もトライしてるけど」
彰斗から聞いた颯太の電話に何度もかけているが、全く繋がらない。
自分にも彰斗のクリニックの住所も教えろという依吹をどうにかほのかは説得する。
「わたしがゲットした情報なんだからわたしがそっちに戻るまで待っててよ。それに依吹一人じゃ何するか分かんないから」
『何するかってなんだよ』
「颯太を殴ったりとか一凛をぶったりとか」
『颯太は別として俺が一凛にそんなことするはずないだろ』
しばらく沈黙した後、依吹は低い声で言った。
『一凛のお腹には俺の子がいるのに』
「それなんだけど」
ほのかは言い淀む。
依吹が電話の向こうで息を潜めているように感じた。
「依吹はほんとうに自分の子だと思ってんの?」
沈黙が流れる。
あまりにも長い沈黙にほのかは電話が切れてしまったのではないかと画面を確認しようとすると依吹の声が聞こえてきた。