雨の降る世界で私が愛したのは


 マンモグラフィーを眺める颯太は何も言わない。

 颯太が何も言わないということは依吹の子なのだろうか。

 颯太は最初から何も一凛に訊かなかった。



「一凛ちゃん」

 颯太の声がすぐそばではっきりと聞こえた。

「がんばれ」

 今度は遠くに。

 「もうちょっとだ」

 一凛の目の前が真っ白になる。




 彰斗のクリニックの前にほぼ同時にほのかと依吹は着いた。

 自分の方が絶対に早く着くはずだと踏んだところで依吹に連絡をしたのに、どんだけ依吹は車を飛ばして来たのだとほのかは驚く。

 ほのかが依吹に再度連絡をした時、すでに依吹は颯太が今日は非番であること、自宅にもいないことを調べてあげていたが、さすがに彰斗のクリニックの場所までは分からなかったようだった。

 一戸建ての彰斗のクリニックの窓の一つから灯りが漏れているのが見えた。

 ガラス窓に診療時間の案内が書かれたドアの前に二人は立った。


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