雨の降る世界で私が愛したのは
ほのかは冷めた目をして伊吹を見た。
「伊吹がハルの子を処分しろなんて言うから一凛はショックを受けたのよ。その場しのぎの反発で颯太の子って言っただけでしょ」
ほのかはポケットからベイプを取り出すと口に加え深く息を吸い込んだ。
「ところでほんとに伊吹が警察に通報したの?」
伊吹はほのかの口から吐き出される白い煙を目で追った。
煙は雨の中を縫うように泳ぐと闇に溶けて消えた。
「ああ」
伊吹は掠れた声でうなずいた。
「馬鹿なことを」
ほのかは傘を広げ車へ歩いて行ったがしばらくしてまだ入口の前に佇む伊吹のところに戻ってきた。
「行かないの?とりあえず今晩どうにかするのは無理。一凛の怒りが鎮まるまで待たないと、今は何を言っても逆効果。しばらくはそっとしておきなさい。一凛ももう伊吹の前からいなくなったりしないでしょうし」
伊吹は黙っていたが、仕方なさそうに傘もささずに雨の下に出た。
二人は無言でそれぞれの車に乗り込んだ。