雨の降る世界で私が愛したのは
彰斗を迎えに行ったあの日、通りで見かけた一凛の跡をつけた颯太が耳にしたのは信じがたいものだった。
扉の裏側から聞こえてくる一凛の糸のような細い声ともう一つの荒い息づかい。
通りに出て何度も吐いた。
吐いても吐いてもおぞましさはなくならなかった。
眠れない夜を何日間も過ごし、つかの間の浅い眠りは悪夢に犯される。
警察に連絡するという考えは颯太にはなかった。
関わり合いたくなかった。
一刻も早く忘れたかった。
道端にうずくまっている一凛を最初は無視した。
他の誰かが気づいてくれるだろうと。
それでもその場を立ち去ってしまうことはできず、早く誰かが一凛を助けないかと離れたところから様子をうかがっていた。
五分経っても十分経っても通りかかる人はいなかった。
そのうち一凛は耐えきれなくなったのか、両手を濡れた地面についた。
持っていた傘が転がる。
気づいたら一凛に声をかけていた。