雨の降る世界で私が愛したのは
この非力な生き物がどうして自分に復讐などできようか。
まだ無の中に存在しているこの子がどうして恨みなどいう感情を持ち合わせていようか。
颯太はまばゆく光るその子を抱きあげた。
その瞬間、温かいものが胸の内側から溢れ出るようにして颯太を包んだ。
なぜかそれは胸に抱いたこの子とそして一度も触れることなく逝ってしまった我が子と繋がっていると直感した。
すぐ近くに我が子を感じた。
形のない想いだけの魂とも呼べるそれは、颯太にぴったりと寄り添い、伝わって来るものは暖かく喜びに満ちていた。
恨みや哀しみとはほど遠いその想いに颯太は胸を詰まらせた。
我が子は一度でも自分を恨んでなどいなかったのだと颯太は知った。
それどころか、自責の念に捕らわれる颯太をずっと心配していた。
『お父さん、大丈夫だから』
そんな風に言っているように思えた。
温かい光を颯太の胸に灯すと我が子の気配は空気に溶けるようにして消えてなくなった。