雨の降る世界で私が愛したのは

伊吹の出生の秘密



「颯太さん、ありがとう」

 自分を少しも疑わずに頼ってくれた一凛に颯太は心の中で詫びた。

 激しい雨に叩かれ窓ガラスが鳴る。

 それさえも祝福に感じられた。

 外は嵐だった。

 唸るような雨風の音で一凛と颯太は部屋の外で物音がしたのに気づかなかった。






 勢力を強めたり弱めたりしていた雨は、ついに怒りを爆発させたように世界を己の力で沈めようと降り注いだ。

 延期になっていた生贄の儀式は今度こそ行われるだろうと、早く行わなければと人々の意識が熱を帯びてくる。





 切れかかかった蛍光灯は今は消えている時の方が多く、時々思い出したようにパッと明るくなったりする。

 遠くで雷が轟いた。

 それに混じって聞こえた微かな物音を伊吹は聞き逃さなかった。

「そろそろ来ると思ったよ。動物園は厳重すぎてこの前にみたいに入り込むのは無理だろう」

 俯いたままそう言った伊吹は顔を上げると音のした背後を振り返った。




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