雨の降る世界で私が愛したのは


「それは俺が呪われて生まれてきた男だからか?でも赤ん坊にはその血が半分は混ざっているんだぜ」

 伊吹は薄茶色の鋭い瞳で一凛を見下ろした。

「伊吹は呪われてなんていない。伊吹のお姉さんは辛かったかも知れないけど、伊吹に罪はないじゃない」

 そうだ。

 きっかけは痛ましいものだったかも知れないが、生まれてきた子どもに罪はない。

 ましてや呪われているなどと。

「俺の父親は外国国籍の強姦魔なんかじゃないんだよ、一凛」

 伊吹はおもむろにポケットに手を突っ込んだ。

 取り出したのは赤いペンだった。

「これは何色のペンだ?一凛」

 一凛は伊吹の意図が読めず戸惑ったが、それでも「赤」と応える。

「どうして俺の目が色を区別できないんだと思う?どうして俺が遺伝子の研究をしているんだと思う?」

 伊吹はペンのキャップを取ると自分の手の平に『血』と書き、一凛の目の前に突きつけた。



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