雨の降る世界で私が愛したのは
「別に幸せになんかにならなくていいさ、今までだって一度も自分が幸せだと思ったことなんてないんだ」
「じゃ、どうして伊吹はここにいるの?
どうして産まれてきたの?
なんのために存在するの?
ここに存在するということは意味があるのよ。
その意味とは人を憎むことや自分を呪うことじゃ決してない」
「じゃあなんだって言うんだよ」
一凛は握りしめられた伊吹の手を取るとその指をそっと広げた。
「わたしにも分からない。
でもきっとそれは血を超えるもの。
わたし達はわたし達をがんじがらめにするものを超えるために、次の光に満ちたところに行くためにこの世に生を受けたんだと思う。
その超えなければいけない壁が高ければ、わたし達は人より高く飛ばなければならない。
苦しいだろうし大変だと思う。
でも高く飛んだ先は高く飛ばなかった人には見えない美しい景色が広がっているはず。
伊吹は人よりもずっと高い壁を持って生まれてきた。
それは息吹がそれをできる人だから」