雨の降る世界で私が愛したのは


 伊吹は一凛の手を振り払うと窓際に立った。

 暗い海のような夜が窓の外に広がっている。

「俺はそんなに強くねぇよ。飛べなかったらどうすんだよ」

「伊吹は必ず飛べる」

 窓に映る伊吹の目を見て一凛は言った。

「一凛はそれをハルと飛び、俺はひとりで飛べってか」

 一凛は否定も肯定もしなかった。

 沈黙が流れた。

 長い間そうしていた。

「行くか」

 伊吹は振り返った。

「ハルに会いたいんだろ」

 伊吹は寂しそうに微笑んだ。

 夜が明けようとしていた。




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