雨の降る世界で私が愛したのは
生贄の儀式
動物園の正門では二人の警備員が直立姿勢で雨に打たれていた。
黒い雨合羽から雨が流れ落ちる。
一凛が不憫そうに彼らを見ていると「これも儀式までさ」と伊吹は言った。
外で一凛を待たせたまま伊吹は灯りのついた事務所の中に入って行く。
五分ほどで伊吹は戻ってきた。
伊吹は一凛を動物園のある建物に連れて行った。
それは四角いコンクリートでできた大きな棺桶のようだった。
見ただけで一凛は息苦しさを感じた。
伊吹は鍵の束から一つの鍵を抜き取ると、他を一凛の手に握らす。
それらはずしりと重かった。
「俺はここで待ってる。最後なんだから時間は気にすんな」
伊吹はポケットからタバコを取り出すと火をつけた。
一つ目の扉を背中で閉めた一凛は深く空気を吸い込んだ。
そこには確かにハルの匂いの粒子が混じっていた。
二つ目、三つ目の扉を開ける。