雨の降る世界で私が愛したのは


 最後の扉の鍵を探す指が震えた。

 それでもどうにか鍵を開け重い扉を押す。

 まるで鍾乳洞で広い空間に突き当たったようだった。

 最後の扉を開けたそこは外の明かりが差し込んでいた。

 見上げると高い天井に大きな窓があり所々割れたガラスの間から雨が降り込んできている。

 その下にハルはいた。

 四本のしなやかに伸ばした手足が美しいカーブを描いた肢体を支えている。

 血が滲んでいた背中は見る影もなく、銀色の雨雫がその美しい白銀色の背中で光っている。

 初めてハルを見た時もこんな風だった。

 そしてまた今、一凛はハルの美しさに見惚れる。

 ハルはおもむろに顔を一凛の方に向ける。

 その瞳は一凛がやってくるのが分かっていたと静かに言っていた。

 ハルはゆっくりと一凛の目の前にやってきた。

 黒曜石のような深い瞳は初めて会ったあの時と同じだった。



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