雨の降る世界で私が愛したのは
「元気にしていたか」
一凛が手を差し入れハルに触れるとハルは両腕を伸ばし鉄格子越しに一凛を抱きしめた。
「鉄格子が頬に当たって冷たい」
一凛はハルの胸の中で呟いた。
しばらく動かずじっとそうしていた。
出会った頃のことやアパートで過ごした日々のことを話した。
これから長い間離れ離れになる恋人同士のような会話だった。
楽しかった想い出だけを口にした。
その数はあまりも少なかった。
話すことがなくなるとまた同じ想い出を繰り返し話した。
同じ内容の話を同じように話した。
そうするとまるで時間が戻ったかのような錯覚に陥る。
ずっとこのままこうしているために繰り返し繰り返し話した。
殆どしゃべっているのは一凛だった。
ハルは黙ってそれを聞いた。
一凛の声はだんだんと小さくなっていき、楽しかった想い出話にすすり泣く声が混じってもハルは一凛を抱きしめたまま黙ってそれを聞いていた。