雨の降る世界で私が愛したのは
依吹は檻の中のゴリラを観察するようにじろじろ見ている。
「へえ、面白いな。こいつ一凛には威嚇しないんだ」
依吹が一歩足を踏み出し檻に近づくと、ゴリラは白い歯を剥き出し、依吹に向かって唾を吐いた。
おっと、と依吹は後ろに飛び跳ねる。
ゴリラは檻の前から離れると奥の方に行ってしまった。
「なんだよ、唾のあとはシカトかよ。ひでぇな」
そう言って依吹は笑った。
「こんなところで何してるのよ依吹、お姉さん手伝わなくていいの?」
慰めの言葉をかけようと思っていたのに、元気そうな依吹を見て、つい説教がましいことを言ってしまう。
「こいつ先月ヴィルンガ火山群で保護されたんだけど、ぜんぜんしゃべんないし、すごい凶暴でみんな手を焼いてるんだよな」
「保護?」
「ああ、結構深い傷を負って瀕死の状態だったんだけど、もうこの通りさ。やっぱり野生動物ってすごいよな」