雨の降る世界で私が愛したのは
あの日、ハルの叫び声は建物の外の伊吹まで届いた。
激しく長くその声はいつまでも止まなかった。
息吹のポケットの中で電話が震えた。
受信したメッセージを開くとそれはトンゴの死を伝えるものだった。
伊吹は一凛とハルに条件を出した。
トンゴをハルの代わりに生贄として差し出しハルを元いたジャングルに返す。
その代わり一凛は自分と一緒に残ること。
もしくは最悪一凛がハルと一緒にいきたいというならそれでもいいが、子どもは自分に引き渡すこと。
伊吹が言い終わる前に一凛は大きな声で「分かった」とうなずいた。
一凛はポンチョのフードを取り頭上を見上げる。
幾重にも重なった木々の葉がところどころ雨を遮っていたが、葉の上でまとまった雨が大きな雫となって落ちてくる。
学生のころ何度もジャングルに足を運んだが、このヴィルンガ火山群は初めてだった。
一凛の前を歩く伊吹の背中はびっしょりと濡れている。
伊吹は歩き出して早々暑くて着てられないとポンチョを脱いでしまった。
肩にはライフルがかけられていた。