雨の降る世界で私が愛したのは


 伊吹が銃を扱うとは意外だった。

 それを言うと伊吹は

「俺のところは猛獣がいる動物園だからな」

 と考えてみればそうかと納得する。

 それにライフルなしに人間がジャグルに入り込むなんて自殺行為だとも伊吹は言った。

「行きはハルもいるからまだいいけど帰りは」

 そこまで言うと伊吹は口を閉じた。

 一凛は伊吹の条件をのむつもりはなかった。

 自分の胸の中で眠るこの子の顔だけしか見ていない伊吹は自分の子だと信じきっている。

 ハルの子だと知れば伊吹はこの子を殺すだろう。

 一凛は赤ん坊を連れてハルと一緒に行くつもりだった。

 このジャングルのどこかでひっそりとハルと三人で暮らそうと思っていた。

 ハルと一緒ならそれは可能に思えた。

 ハルはずっと眩しそうに辺りを見つめている。

 動物園の檻の中でも、狭いアパートの部屋の中でもない、無限に続くように思えるジャグルの中で見るハルはこの地球上にいる生物の中で一番美しく、そして頼もしく見えた。 


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