雨の降る世界で私が愛したのは


「伊吹、まだ奥まで行くの?」

 ずいぶんと歩いた。

 あまり奥まで行くと伊吹が戻れなくなるのではないかと心配になった。

 ああ、と伊吹は立ち止まる。 

 伊吹、そして一凛とハルは向き合った。

「伊吹、わたし」

「一凛」

 二人は同時だった。

 もどかしく唇を動かすだけの一凛に伊吹は言った。

「その赤ん坊は俺の子じゃないんだろ。ハルの子なんだろ」

 一凛の背後でハルが動いた。

「行けよ」

 伊吹は微笑んでいるように見えた。

「そのつもりなんだろう」

「伊吹」

 伊吹は急に怖い顔をした。

「行くんだったら早く行け」

 ハルが一凛の肩に触れた。

 一凛はハルを振り返り伊吹を振り返り、最後まで伊吹に視線を残し、そして背を向けた。

 ハルの雨で濡れた大きな体に一凛は寄り添う。

 伊吹は肩からライフルを外すとゆっくりと構えた。

 伊吹の目に二つの寄り添う影が揺らめいて見える。




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