雨の降る世界で私が愛したのは
空に銃声が響き渡った。
驚いた鳥たちがいっせいに飛び立つ。
ハルはその瞬間血走った赤い目を見た。
「イチカ」
ハルは叫んだ。
赤ん坊を抱きしめ丸まった一凛を無我夢中でたぐり寄せる。
下腹が焼けるように熱い。
叫び声が聞こえた。
背中に火の矢が降り注ぐような感覚を覚える。
ハルは一凛とその胸の中の赤ん坊を抱えたまま前に倒れた。
目の前に先の尖った葉が雨に濡れていて、その先端に小さな羽虫が止まっていた。
ハルは薄れゆく意識の中でこの光景を前にも見たことがあると思った。
伊吹は振り返った。
遠くで銃声の音が聞こえたような気がしたが、森を叩く雨の音とどこからともなく聞こえてくる歌うような鳥の声にそれは掻き消された。
目の前に大木がそそり立っている。
熱帯雨林の植物らしく足のような太い根を地面から生やすその様は今にも動き出しそうだった。