雨の降る世界で私が愛したのは
でもこの大木は気の遠くなるくらいの長い時間をここにこうしているのだ。
伊吹は大木を撫でるとその足の一本に腰かけた。
「なぁ」
と大木を仰ぐ。
「千年ってどれくらいの長さなんだ?お前だったら知ってるだろ」
ざっと音を立てて大木が揺れた。
大きな雨粒がいくつも伊吹に降り注ぐ。
「あいつらが認められるような世の中になるにはまだこの地球は千年早いよな」
伊吹は木の幹に体をもたせかけると目を閉じる。
ジャングルの雨の音は心地良かった。
おもむろにポケットから電話を取り出す。
瞼に温かい雨を感じながら呼び出し音を鳴らす。
何度目かで懐かしい声が聞こえた。
もう何年も聞いていない声だった。
その声が自分の名前を呼ぶ。
「久しぶり、姉さん」
語尾が震えた。