雨の降る世界で私が愛したのは
ゴリラは奥に座ったまま檻の外のどこか遠くをじっと見つめ動かない。
「なんだか可哀想」
一凛がそう言うと、そうでもないよと依吹は言う。
「みんなが言ってるのがさ、睦雄はもしかしたら生まれつき頭が弱いんじゃないかって。しゃべらないんじゃなくて、しゃべれない。普通ゴリラは頭がいいからさ、自分が置かれた状況を把握してちゃんと人間と上手くやるもんなんだよ。でも睦雄はこんなだろ。こんなふうにただひたすら人間を威嚇するのってあんまり知能が高くない野生動物が取る行動なんだ。だから一凛が思っているような哀しいとか寂しいとか辛いとか、そんな感情は持ち合わせていないんじゃないかな」
感情を持っていない動物が恐れの表現である威嚇をするだろうかと一凛は思った。
それにあの瞳はとても深かった。
知能が低いどころかその逆に見えた。
「そうなのかなぁ」