雨の降る世界で私が愛したのは
 

 自分の人生が周りに決められていくようで一凛は不安だった。

 本当にこのままでいいのだろうか?

 でも周りを説得するだけの確固たる何かを一凛は持っていない。

 そしてそれが一凛を一番不安にさせた。

 一凛の友人たちはみな他人の将来を語るかのように自分の将来を語ったが、一凛と大きく違うところは、皆それを疑うことなく受け入れているところだった。

「別にお医者さんになりたくないわけではないの、すばらしい仕事だと思うし。でもなにか違う気がする。わたしの心を揺さぶるような何か、そのために生まれてきたんだと思えるような強い何かをわたしは探してるの」

 一凛は短いため息をつき、自分の足元の水溜りに視線を落とす。

 できては消える大小の波紋を見つめていると、ふと水面が暗くなった。

 顔を上げるとさっきまで檻の奥にいたゴリラが一凛の目の前にやってきていた。



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