雨の降る世界で私が愛したのは
ゴリラと目が合う。
あの時と同じ深い眼差しをゴリラは一凛に向けていた。
一凛の悩みを全て受け止め、慰めてくれているような優しさがあった。
「あなたはわたしの話していること全部分かっているんでしょう?依吹やみんなが、あなたがその、頭が弱いなんて言うのはほんとうじゃないでしょ?」
ゴリラはゆっくりと目を瞬いた。
「ほんとうは話せるんでしょう?それとも声が出ないの?」
ゴリラは一凛に背を向けるとまた檻の奥へと行ってしまった。
一凛は唇を噛む。
気づくと閉園の時間がせまっていた。
檻の前を離れぬかるんだ道を正面門に向かって歩いていると、頭上でカラスが話しかけてきた。
「アイツ変だろ、変だろ」
一凛が無視しても、変だろ変だろと追いかけてくる。
「うるさいわね、どう変だって言うのよ」
つい言い返してしまった。