雨の降る世界で私が愛したのは
「別に依吹がそうだとは言ってないけど、そういうこともあるという意味で」
墓穴を掘っているようで焦ったが、颯太は途中から一凛の言葉など聞いていないかのようだった。
「一凛」
颯太の息が一凛の鼻先にあたった。
キスされる!
反射的に体を後ろに引いた。
颯太と目が合う。
「あの、わたしもう行くんで」
一凛は逃げるように図書室を飛び出した。
背中に颯太の視線を感じた。
自分が周りより後れているのは分かっていた。
ほのかや他の子はみんなファーストキスは済ませている。
中にはキスのその先、最後までいってる子もいる。
半分以上が興味本位で「こんなもんかと思った」という感想が多かったが、中には「頭がスパークする感じ」とか「音楽が鳴り出した」とか言う感想を目をキラキラさせながら語る子もいた。
学校の門を出たところで一凛は本をそのまま持ち出して来てしまったことに気づいた。
戻って颯太と鉢合わせするのが嫌で、明日ちゃんと手続きをすればいいやと、一凛は動物園に向かった。