雨の降る世界で私が愛したのは


 いつもの場所ではなく一凛からは見えない場所に隠れてしまった彼をしばらくの間一凛は待ったが、やがてあきらめ檻から離れた。



 次の日学校が終わると一凛はまたまっすぐに動物園に向かった。

 彼の姿は檻の中に見えなかった。

 一凛は鞄から一冊の本を取り出すと檻の中に差し入れた。

 一凛が最近読んだ小説だった。

 次の日、本は同じところに置かれたままだった。

 彼の姿も見えない。

 その次の日、触れられた形跡のない小説を別の本に差し替えた。

 何度本を変えても本がなくなることはなかった。

 あの日以来、彼が一凛の目の前に現れることもなかった。

 ふと一凛は思い立ち、彼が手に取って眺めていたのと同じ本を書店で買った。

 図書室で借りたものの一凛は結局まだ一ページも読んでいなかった。

 本を置いた次の日、その本はあった場所から消えていた。

 彼の姿は見えなかったが、一凛は嬉しくて動物園からの帰り道をスキップしたくなるほどだった。




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