雨の降る世界で私が愛したのは


 それから学年最後の期末試験に突入した。

 来年のクラス分けにも影響する大事な試験だったため、一凛もさすがに動物園に寄らずまっすぐに帰宅した。

 はれて試験が終わると一凛は動物園へと急いだ。

 なんとなく今日は彼が姿を現してくれるような気がしていた。

 一週間ぶりに行くと檻の周りの生い茂った緑が剪定されすっきりとしていた。

 見通しのよくなった檻の前に黒い傘が立っているのが見えた。

「颯太さん」

 一凛は驚いて立ち止まる。

 どうしてここに?

 訊ねようとして颯太の手に例の小説が握られていることに気づく。

「どうしてそれを?」

「そこにあったんだよ」

 颯太は檻の前を指差した。

 一凛は檻の奥をのぞいたが彼の姿はなかった。

「一凛ちゃんが夢中になってるゴリラがどんなもんなのか見に来たんだけど、全然姿を見せてくれなくて残念」

 颯太は本を一凛に手渡した。



< 61 / 361 >

この作品をシェア

pagetop