雨の降る世界で私が愛したのは


「これ一凛ちゃんがこの前図書室で借りてたやつだろ、こんなところに忘れちゃ駄目だよ」

 うん、と小さな声で一凛はうなずいた。

 颯太は檻の奥に向かって大声で叫ぶ。

「おーい、睦雄出てこいよ。隠れているなんて卑怯だぞ」

 彼の名前は睦雄じゃないと言いたかったが、本当の名前を知らない一凛は黙っているしかなかった。

「このまま出てこないんだったらそれでもいいけど、だったらもう二度と一凛ちゃんに会わせないからな、いいんだな、それでも」

「颯太さん、ちょっと」

 一凛が颯太を止めようとすると、颯太は穏やかな態度を一転させた。

「だって変じゃないか!毎日ゴリラを見に来るなんて子どもじゃあるまいし。いったい最近どうしたって言うんだよ」

 颯太が一凛の肩を掴む。

 その力が思いほか強く一凛は驚き身を縮めた。

「まじで睦雄に焼いてんの、だっせー」

 いつの間にか依吹が少し離れたところに立っていた。






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