雨の降る世界で私が愛したのは


「睦雄はゴリラだぜ」

 依吹はにやにやしながら二人に近づいてくると、青い傘をくるんと回した。

 水を飛ばされた颯太は一瞬逆上したように見えたがすぐに冷静さを取り戻した。

「焼きもちなんか焼いてないさ、ただ心配なだけだ。一凛ちゃんの歳で毎日ゴリラを見に来るなんてどう考えたっておかしいだろ」

「そうか?一凛って昔からちょっと変だから、俺は別になんとも思わないけど」

 依吹の言葉に颯太はあからさまに嫌な顔をした。

「依吹、おまえ親父が死んでから、おまえも多少は権限があるんだろ。だったらこんな凶暴なゴリラさっさと処分しろよ」

 依吹は片方の眉毛だけをつり上げた。

「あんたサイテーだな」

 颯太は冷ややかに笑った。

「生まれながらにサイテーなおまえに言われたくないな。知ってんだぞ、お前の姉ちゃんはほんとうは」

 青い傘が宙を舞った。




< 63 / 361 >

この作品をシェア

pagetop