雨の降る世界で私が愛したのは
依吹が颯太に掴みかかる。
颯太も自分の傘を投げ捨て二人は掴み合いの喧嘩を始めた。
一凛は懸命に二人を止めようとした。
「颯太さんも依吹もやめて」
どちらかの振り上げた腕が一凛の頰に激しく当たった。
「いたっ」
喧嘩に夢中の男二人はそれには気づかない。
その時だった。
何かが鉄格子に当たる爆発的な音がしたかと思うと、地面が揺れるほどの低い叫び声がした。
三人は同時に同じ方向を見た。
黒い毛で覆われた巨体を激しく檻にぶつけ、大きく開けられた口から白い牙と赤い口内が露出する。
血走った目は颯太と依吹を食い殺さんばかりに睨みつけていた。
睨みつけられた二人は固まり呆然としている。
するとまた激しく檻に体当たりしたかと思うと空気が震えるほど大声で吠え、また体当たりを繰り返す。
太い鉄格子がその度に揺らいだ。