雨の降る世界で私が愛したのは
「お、おい大丈夫かよ」
颯太が横の依吹に訊ねる。
「あ、ああ。睦雄の檻は頑丈にできてるから大丈夫なはず」
黒い巨体が檻の奥へ移動したかと思うと、もの凄いスピードで突進してきて檻にぶつかった。
「お、おい行こうぜ」
颯太は後ずさった。
「一凛」
依吹が一凛の手を取ろうとすると、颯太が舌打ちをし、一凛を自分の方に引き寄せた。
檻から離れる三人に地響きのような叫び声が追いかけてくる。
颯太に引っ張られながら一凛は檻を振りかえった。
充血したその黒い瞳が一凛を見ていた。
一凛は家に帰ると濡れて冷えきった体をゆっくりと湯船に沈め温めた。
お湯からあがると濡れた髪と躯を丁寧に拭く。
曇ったガラスを手で擦るとそこに映った自分の顔が少しだけ赤く腫れていた。
自分の部屋の扉を開けると、勉強机の上に置いた電話が震えていた。