雨の降る世界で私が愛したのは
娘はその朝、自らの命を絶った。
男に裏切られ、それでも男を愛し続けた娘にとって自分の躯に残っていた男の残影だけが残された愛の破片だった。
娘の死を知った男はそのまま外へ出て行き、最初にあった木で首を吊った。
娘の父親は男の亡骸を娘の墓の横に埋めてやった。
周りから激しく反対されたが彼は静かに言った。
「わたし達のその偏見がもっとも美しいものを叩き潰してしまったのだ」
誰が種を蒔いたわけでもないのに、次の春二人の墓の間に赤い花が咲いた』
一凛は本を閉じた。
外が薄ぼんやりと明るい。
窓を開けると風と一緒に細かな雨が降り込んできて、一凛の火照った頰を濡らした。
その朝いつもの一つ目の角に颯太はいなかった。
急いで鞄から電話を取り出し未読のままのメセージを開く。