雨の降る世界で私が愛したのは
「なんでいつもあいつらなんだろ」
大雨が続くとそれを鎮めるために生け贄が差し出された。
たいがいは生きたまま氾濫する川に重しをつけて鎮められる。
「だって人間がなるわけにいかないよ」
初めて生け贄の儀式が行われる光景を見た時は衝撃すぎて一凛は数日間しゃべることができなかった。
その時はそれほどの大雨ではなかったので一羽のニワトリだった。
それでも波のように川辺に打ち寄せられた水に白い羽根が何枚も浮いているのを見たときは体中の力が抜け一凛はその場にしゃがみこんでしまった。
最後にニワトリが叫んだ『みずぅ』という声がいつまでも耳に残り、それは耳鳴りとなって一凛を苦しめた。
学校も休んだ。
三日後の朝依吹が迎えにやって来た。
「あのニワトリはお爺さんニワトリだったからさ、どのみちそう長くは生きられなかったんだよ」