雨の降る世界で私が愛したのは
依吹の家は動物園だった。
正しく言えば依吹のお父さんは動物園の園長さんで、生け贄の動物たちはたいがい依吹のお父さんの動物園から選ばれた。
去年のトラの後、何日間も学校に来ない依吹を今度は一凛が迎えに行った。
しぶしぶ玄関先に出て来た依吹の顔はむくんで膨らんでいた。
でもその顔よりも一凛が驚いたのは、依吹のお姉さんが「ほら早く」と依吹の肩に触れようとしたとき、「さわるなぁー」と依吹が大声で叫んだことだ。
引っ込めた自分の手を胸の前で握りしめる依吹のお姉さんは泣きそうな顔をした。
予鈴が鳴った。
「なんで雨って降るのかな」
一凛は呟いた。
重そうな灰色の雲から毎日毎日、一日も休むことなく雨は落ちてくる。
朝がきて夜がくるのが当たり前のように毎日雨は降る。